日本出版法(明治26年法律第15号)
第一条 凡ソ機械舎密其ノ他何等ノ方法ヲ以テスルヲ問ハス文書図画ヲ印刷シテ之ヲ発売シ又ハ頒布スルヲ出版ト云ヒ其ノ文書ヲ著述シ又ハ編纂シ若ハ図画ヲ作為スル者ヲ著作者ト云ヒ発売頒布ヲ担当スル者ヲ発行者ト云ヒ印刷ヲ担当スル者ヲ印刷者ト云フ
第二条 新聞紙又ハ定期ニ発行スル雑誌ヲ除クノ外文書図画ノ出版ハ総テ此ノ法律ニ依ルヘシ但シ専ラ学術、技芸、統計、広告ノ類ヲ記載スル雑誌ハ此ノ法律ニ依リ出版スルコトヲ得
第三条 文書図画ヲ出版スルトキハ発行ノ日ヨリ到達スヘキ日数ヲ除キ三日前ニ製本二部ヲ添ヘ内務省ニ届出ヘシ
第四条 官庁ニ於テ文書図画ヲ出版スルトキハ其ノ官庁ヨリ発行前ニ製本二部ヲ内務省ニ送付スヘシ
第五条 出版届ハ著作者又ハ其ノ相続者及発行者連印ニテ之ヲ差出スヘシ但シ非売品ハ著作者又ハ発行者ノミニテ届出ルコトヲ得
2 版権ノ保護ナキ文書図画ヲ出版スルトキ若ハ著作者又ハ其ノ相続者ヲ知ルヘカラサルトキハ其ノ由ヲ記シ発行者ヨリ差出スヘシ
3 学校、会社、協会等ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ出版スル文書図画ハ其ノ学校、会社、協会等ヲ代表スル者発行者ト連印シテ之ヲ届出ヘシ
第六条 文書図画ノ発行者ハ文書図画ノ販売ヲ以テ営業トスル者ニ限ル但シ著作者又ハ其ノ相続者ハ発行者ヲ兼ヌルコトヲ得
第七条 文書図画ノ発行者ハ其ノ氏名、住所及発行ノ年月日ヲ其ノ文書図画ノ末尾ニ記載スヘシ
第八条 文書図画ノ印刷者ハ其ノ氏名、住所及印刷ノ年月日ヲ其ノ文書図画ノ末尾ニ記載シ住所ト印刷所ト同シカラサルトキハ印刷所ヲモ記載スヘシ
2 印刷所若数人ノ共有ニ係ルトキハ営業上其ノ印刷所ヲ代表スル者ヲ以テ印刷者トス
3 前二項ノ印刷所ニシテ若営業上慣行ノ名称アルモノハ其ノ名称ヲモ記載スヘシ
第九条 書簡、通信、報告、社則、塾則、引札、諸芸ノ番附諸種ノ用紙証書ノ類及写真ハ第三条第六条第七条第八条ニ拠ルヲ要セス但シ第十六条第十七条第十八条第十九条第二十一条第二十六条第二十七条ニ触ルル者ハ此ノ法律ニ依テ処分ス
第十条 文書図画ノ冊号ヲ逐ヒ順次ニ出版スル者ハ其ノ都度第三条ノ手続ヲ為スヘシ但シ雑誌類ニ在テハ内務大臣ノ許可ヲ経テ其ノ手続ヲ省略スルコトヲ得
2 此ノ法律ニ依リ出版スル雑誌ニシテ十二箇月間一回ヲモ発行セサルトキハ廃刊シタルモノト看做スヘシ
第十一条 一タヒ出版届ヲ為シタル文書図画ノ再版ハ出版届ヲ要セスト雖若改正増減シ又ハ註解、附録、絵画等ヲ加ヘタルトキハ仍第三条ニ依ルヘシ
第十二条 演説若ハ講義ノ筆記ハ演説者若ハ講義者ヲ以テ著作者トス但筆記者ニ於テ演説者若ハ講義者ノ承諾ヲ得テ自ラ之ヲ出版スルトキハ筆記 者ヲ著作者ト看做スヘシ此ノ場合ニ於テ記載ノ事項第十六条第十七条第十八条第十九条第二十一条第二十六条第二十七条ニ触ルルトキハ演説者若ハ講義者筆記者 ト同ク其ノ罪ヲ論ス
2 公開ノ席ニ於テ為シタル演説ヲ新聞紙若ハ雑誌ノ通信者ニ於テ筆記シ其ノ新聞紙若ハ雑誌ニ記載シタルモノ及総テ演説者講義者ノ承諾ヲ経スシテ其ノ筆記ヲ出版シタルモノニ関シテハ演説者若ハ講義者ハ著作ノ責ニ任セス
3 公開ノ席ニ於テ為シタル演説ノ外ハ講義者又ハ演説者ノ許諾ヲ経ルニ非サレハ他人ニ於テ其ノ筆記ヲ出版スルコトヲ得ス但シ本項ニ違フ者ハ版権法ニ拠リ其ノ責ニ任セシム
第十三条 二種以上ノ著作若ハ演説講義ノ筆記ヲ編纂シテ一部ノ書ト為ストキハ編纂者ヲ著作者ト看做スヘシ
2 前条第一項ノ末段及第二項第三項ハ本条ニ適用スヘシ
第十四条 翻訳ハ翻訳者ヲ以テ著作者ト看做スヘシ
第十五条 学校、会社、協会等ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ出版スル文書図画ハ其ノ出版届ニ署名シタル代表者ヲ以テ著作者ト看做スヘシ
第十六条 罪犯ヲ煽動シ若ハ曲庇シ又ハ刑事ニ触レタル者若ハ刑事裁判中ノ者ヲ救護シ若ハ賞恤シ又ハ刑事裁判中ノ者ヲ陥害スルノ文書ヲ出版スルコトヲ得ス
第十七条 重罪軽罪ノ予審ニ関スル事項ハ公判ニ付セサル以前ニ於テ之ヲ出版スルコトヲ得ス
2 傍聴ヲ禁シタル訴訟ノ事項ハ之ヲ出版スルコトヲ得ス
第十八条 外交軍事其ノ他官庁ノ機密ニ関シ公ニセサル官ノ文書及官庁ノ議事ハ当該官庁ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ出版スルコトヲ得ス
2 法律ニ依リ傍聴ヲ禁シタル公会ノ議事ハ之ヲ出版スルコトヲ得ス
第十九条 安寧秩序ヲ妨害シ又ハ風俗ヲ壊乱スルモノト認ムル文書図画ヲ出版シタルトキハ内務大臣ニ於テ其ノ発売頒布ヲ禁シ其ノ刻版及印本ヲ差押フルコトヲ得
第二十条 外国ニ於テ印刷シタル文書図画ニシテ安寧秩序ヲ妨害シ又ハ風俗ヲ壊乱スルモノト認ムルトキハ内務大臣ハ其ノ文書図画ノ内国ニ於ケル発売頒布ヲ禁シ其ノ印本ヲ差押フルコトヲ得
第二十一条 軍事ノ機密ニ関スル文書図画ハ当該官庁ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ出版スルコトヲ得ス
第二十二条 第三条ノ届出ヲ為サスシテ文書図画ヲ出版シタル者ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十三条 第六条ヲ犯ス者ハ十一日以上三月以下ノ軽禁錮又ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十四条 発行者自己ノ氏名、住所又ハ発行ノ年月日又ハ印刷者ノ氏名、住所又ハ印刷ノ年月日ヲ其ノ発行スル文書図画ニ記載セス其ノ之ヲ記載スルモ実ヲ以テセサル者ハ二円以上三十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十五条 印刷者自己ノ氏名、住所又ハ印刷ノ年月日ヲ其ノ印刷スル所ノ文書図画ニ記載セス若ハ之ヲ記載スルモ実ヲ以テセサル者ハ罰前条ニ同シ
2 住所ト印刷所ト同シカラサルトキ及印刷所ニシテ営業上慣行ノ名称アルトキ印刷所及名称ヲ記載セサル者亦前項ニ同シ
第二十六条 皇室ノ尊厳ヲ冒涜シ、政体ヲ変壊シ又ハ国憲ヲ紊乱セムトスル文書図画ヲ出版シタルトキハ著作者、発行者、印刷者ヲ二月以上二年以下ノ軽禁錮ニ処シ二十円以上二百円以下ノ罰金ヲ附加ス
第二十七条 安寧秩序ヲ妨害シ又ハ風俗ヲ壊乱スル文書図画ヲ出版シタルトキハ著作者、発行者ヲ十一日以上六月以下ノ軽禁錮又ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第二十八条 第十六条第十七条第十八条第二十一条ニ触ルル文書図画ヲ出版シタルトキハ著作者、発行者ヲ十一日以上一年以下ノ軽禁錮又ハ十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス
2 第十九条第二十条ニ依リ発売頒布ヲ禁セラレタル文書図画ヲ発売頒布シタル者罰前項ニ同シ其ノ未タ発売頒布セサル文書図画ハ之ヲ没収ス
第二十九条 第二十六条第二十七条第二十八条ノ場合ニ於テ刻印及印本ハ検事ニ於テ仮ニ之ヲ差押フルコトヲ得
第三十条 前条ノ差押ヲ為ストキハ製本ノ体裁ニヨリ其ノ差押フヘキ部分ト他ノ部分ト分割シ得ルニ於テハ之ヲ分割スルコトアルヘシ
第三十一条 文書図画ヲ出版シ因テ誹毀ノ訴ヲ受ケタル場合ニ於テ其ノ私行ニ渉ルモノヲ除クノ外裁判所ニ於テ専ラ公益ノ為ニスルモノト認ムルトキハ被告人ニ事実ノ証明ヲ許スコトヲ得若之ヲ証明シタルトキハ其ノ罪ヲ免ス損害賠償ノ訴ヲ受ケタルトキモ亦同シ
第三十二条 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ自首減軽、再犯加重、数罪倶発ノ例ヲ用ヰス
第三十三条 此ノ法律ニ関スル公訴ノ時効ハ一年ヲ経過スルニ因テ成就ス
第三十四条 此ノ法律ニ依リ出版スル雑誌ニシテ其ノ記載ノ事項第二条ノ範囲外ニ渉ルトキハ内務大臣ハ此ノ法律ニ依リテ出版スルコトヲ差止ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ一箇年ヲ経ルニ非サレハ更ニ此ノ法律ニ依リ出版スルコトヲ得ス
第三十五条 文書図画ヲ印刷スルトキハ直ニ発売頒布セスト雖其ノ目的発売頒布ニ在ルモノハ総テ此ノ法律ニ依ル
第三十六条 本法ハ発売頒布ノ目的ヲ以テ音ヲ機械的ニ複製スルノ用ニ供スル機器ニ音ノ写調セラレタルモノニ之ヲ準用ス但シ著作者トアルハ吹込者トス